マテリアルズインフォマティクス ベンダー特集
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化粧品開発におけるマテリアルズインフォマティクス(MI)の研究例

目次

近年、化粧品開発のスピードと品質向上を目指す動きが急速に進んでいます。

なかでも、マテリアルズインフォマティクス(以下、MI)の活用は、分子レベルでの解析と膨大なデータの活用によって、従来の「試行錯誤主体」の開発プロセスを大きく変革させつつあります。
MIとは、機械学習や計算化学などの手法を用いて、原料や配合をデータから効率的に探索する技術です。

これにより、開発期間が年単位だった化粧品の新規処方でも、短期間で有望な組み合わせを導き出せるようになりました。

本記事では、とりわけ油性化粧品にフォーカスしながら、MIがもたらすメリットと実際の活用事例、さらにスムーズな導入を支える体制について解説します。

MIを活用した化粧品開発の現状と展望

化粧品は、機能性や安全性の両立が強く求められる産業分野です。高い保湿性や使用感を実現するだけでなく、皮膚トラブルを起こさない配慮も必要となります。

こうした複雑な要求を満たすためには、多様な原料を組み合わせ、それぞれの特性を評価しながら配合を最適化する必要があります。

従来は研究者の経験や勘に加え、試作品を何度も作り、保存試験などを繰り返していました。

しかし、そのプロセスは時間とコストがかかりやすく、すべての候補を試すのは非現実的でした。そこで注目を集めているのがMIです。

MIを用いることで、事前にシミュレーションやデータ解析を行い、配合の可能性を絞り込みやすくなります。

花王の事例でも、触媒開発で培った技術を化粧品に応用する取り組みが進んでおり、速演算プラットフォームを使って大量の試行錯誤をシミュレーション内で実施することで、開発期間を飛躍的に短縮できる可能性が示されています。

油性化粧品開発におけるMIの
課題と解決策

油性化粧品にはクリームや口紅、ファンデーションなど、多くの製品が存在します。油性成分を主体とした処方では、以下のような課題が特に注目されてきました。

高温環境下での品質変化予測と安定性向上

夏場や輸送時の温度上昇によって、油性化粧品の粘度が変化しやすかったり、成分が分離しやすくなる問題があります。MIを用いることで、高温下での分子間相互作用や粘度変化を予測し、製品の安定性を向上させる配合を短時間で探せます。

たとえば、シリコーン皮膜形成剤を使う配合をシミュレーションし、高温に強い組成のベースを発見するケースも増えています。

顔料の再分散性改善に向けた
配合最適化

粉体や顔料が含まれる油性処方は、長期保存で沈殿や凝集が起こりやすいのが難点です。再度均一な状態に分散させるには攪拌が必要ですが、消費者が使う際に毎回攪拌するのは現実的ではありません。

MIでは、豊富な処方データを活用して、顔料が凝集しにくい添加剤の選定や、分散性を保つための微量成分の調整を効率的に行えます。その結果、再分散性が改善されるだけでなく、製品の使用感を維持しやすくなります。

汗・皮脂による化粧崩れリスクの低減

ファンデーションなどの油性製品は、汗や皮脂の分泌による化粧崩れが課題です。顔料や油分が肌表面で浮いてきたり、滲むように広がってしまう現象が起こります。

MIを用いることで、肌環境を仮想的に再現し、汗や皮脂との相性が良い(あるいは悪い)成分を可視化できます。最適な油剤や防水効果のある皮膜形成剤をシミュレーションで割り出し、短期間で試作品を完成させることが可能になります。

MIによる原料最適化と花王の
事例

油性化粧品の開発では、原料ごとに粘度、熱安定性、分散性といった物性が大きく異なり、それらの組み合わせによって製品全体の品質が左右されます。そのため、複数の原料を最適に配合するには、膨大な組み合わせの中から有効なパターンを効率的に見つけ出す仕組みが求められます。

花王では、もともと触媒開発で活用していた高速シミュレーション技術を、化粧品分野にも応用する取り組みを進めています。

量子化学計算や分子動力学をベースとした演算手法を活用することで、分子構造や原料の相互作用を短時間で評価し、実験に先立って有望な候補をスクリーニングできるようになりました。

従来は、研究者の経験や文献に基づいて原料を選定し、試作品を多数製作・検証するプロセスが不可欠でした。

しかし、高速演算によって数時間~数日かかっていた計算を短時間で多数回実行できるようになったことで、「既存の常識では見落とされていた組み合わせ」や「理論的に有望だが試されてこなかった処方」にも手が届くようになりました。

触媒研究で培った知見を応用することで、これまで優先順位が低かった材料も積極的に検証対象に加えられるようになり、配合設計の幅が大きく広がったとしています。このような事例は、MIの活用が“研究の引き算”ではなく、“可能性の足し算”であることを実感させる好例といえるでしょう。

MIを活用した化粧品研究の
まとめと今後の展望

開発の効率化とコスト削減の
実現

MIを取り入れることで、配合検討や試作品の評価工程を大幅に減らせます。機械学習モデルやシミュレーション結果を元に、最も有望な配合を先に試作できるため、無駄打ちが激減します。

その結果、開発者は短期間で複数の案をチェックでき、リソースを効率的に活用できるようになります。

高性能・安全な製品創出への
貢献

化粧品は直接肌に触れるものであるため、安全性を慎重に見極める必要があります。

MIの解析を活用すれば、肌刺激が少ない成分や、物性バランスが良い素材の探索を数多く試せるようになります。

たとえば高温下でも分離しにくく、べたつきの少ない処方を模索する際に、疑わしい組み合わせを早期に省けるため、トータルの評価が効率化されます。

これが結果として品質向上につながり、製品としての信頼性も高まります。

データドリブンな開発の深化と未知領域への挑戦

MIを積極的に運用すると、社内外に存在する多様なデータソースを横断的に活用しやすくなります。

特許情報、学術論文、過去の実験ノートなどを一元管理し、機械学習で解析すれば、思わぬ材料や配合手法の可能性が見出せます。

未知の領域へチャレンジしやすくなる点は、イノベーション創出という観点でも大きなメリットです。

今後は化粧品のパーソナライズ化など、更なる応用範囲の広がりが期待されます。

まとめ

マテリアルズインフォマティクスは、膨大なデータ、機械学習、そして計算化学を組み合わせることで、化粧品開発の手法そのものを根本から変えつつあります。とりわけ、原料の種類が多く、構成の自由度が高い油性化粧品では、MIの導入効果は非常に大きく、高温環境での安定性確保、顔料の再分散性の改善、化粧崩れの抑制といった多面的な課題に対して、開発初期の段階から有望な処方の絞り込みが可能になります。

花王の事例に見られるように、他分野で培ったシミュレーション技術を化粧品領域に転用することで、試作と検証にかかるサイクルを圧縮し、製品化までの時間を大幅に短縮する動きも出てきています。

もちろん、MIの導入には解析スキルやデータ管理能力が必要であり、立ち上げ初期にはある程度の負荷も伴います。しかし近年では、データ解析や機械学習の外部支援サービス、あるいは教育・研修を含む運用支援が受けられる環境も整ってきており、ハードルは確実に下がりつつあります。

化粧品業界では、すでに一部の大手企業がマテリアルズインフォマティクス(MI)を取り入れ始めており、製品開発の効率化や配合の高度化が進んでいます。今後、こうした取り組みが広がることで、機能性と安全性を両立した製品の増加が期待されますが、技術面やコスト面での課題も残っています。

参照元: 株式会社Preferred Computational Chemistry公式HP https://matlantis.com/ja/case-study/kao-usecase-of-matlantisl

参照元:株式会社CrowdChem公式HP https://crowdchem.net/column/1480/

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