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PFAS規制の現状と研究動向について

目次

PFAS(有機フッ素化合物)とは?

PFASは、炭素とフッ素の結合を特徴とする人工的に合成された化合物群の総称です。代表的なものにPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)やPFOA(ペルフルオロオクタン酸)があり、水や油をはじきやすい性質を持つため、食品包装、撥水加工された衣類、消火剤など多岐にわたる製品に活用されてきました。

これらの物質は自然界で分解されにくく、環境中で長期間残留しやすいことが問題視されています。また、一部のPFASには蓄積性があるため、ヒトや動物が日常的に接触することで、体内に蓄積される可能性が指摘されています。

こうした特徴から、近年は世界的に規制の強化や代替技術の開発が進められるようになりました。

PFASが健康に及ぼす影響

PFASは体内に取り込まれた後に排出されにくく、長期的にわたる健康影響が懸念されています。実際に、動物実験では高濃度のPFASが肝臓や免疫系への影響を引き起こす可能性が示唆されています。

ヒトにおいても、疫学研究の段階で甲状腺ホルモンの変動、コレステロール値の上昇、免疫応答の低下などとの関連が示されたケースがありますが、直接的な因果関係を完全に解明するには、さらに詳細な研究が必要とされています。

とはいえ、世界保健機関(WHO)や各国の公衆衛生当局は慎重な姿勢をとっており、安全マージンを確保する観点から、PFASの使用量削減や規制基準の見直しを進める動きが強まっています。

PFASが含まれる製品と用途

撥水や耐油性といった優れた特性から、PFASは日常生活のさまざまな製品に使われてきました。たとえば、アウトドアウェアやフライパンのノンスティックコーティング、食品用紙容器、医療器具の表面加工などが典型例です。

さらに、油脂や水分を素早くはじく性質は、消防現場で使われる消火泡剤にも活用されています。航空機事故や油火災に対応するために、PFAS系の消火剤が軍事基地や産業施設で大量に使われてきた経緯があり、これが水質汚染の原因の一つとされています。

一方で、近年は代替技術の開発が進み、一部ではフッ素を含まない撥水加工剤や消火剤が実用化されるなど、新たな製品設計への切り替えが模索されています。

日本におけるPFAS汚染の現状

国内では、米軍基地や工業地帯の周辺でPFAS汚染が確認されたケースが報告されています。特にPFOSやPFOAに関しては、地下水や河川水から基準値を上回る濃度が検出され、地域住民が不安を抱える状況も一部で起きています。

環境省や地方自治体は調査を進めるとともに、住民へ向けた情報公開や飲用水の安全対策を検討している段階です。飲料水のPFAS濃度をモニタリングし、必要に応じて供給元の変更や浄水技術の導入を検討する動きも出ています。

しかしながら、土壌や地下水への混入経路を完全に断つのは容易ではなく、多面的な観点から対策を組み合わせる必要があると考えられています。

日本におけるPFAS規制の動向

日本政府はPFASに関する国際的な動向を踏まえ、段階的に規制の強化を行ってきました。とくにPFOSについては、ストックホルム条約による制限対象になったことを受け、国内でも製造や使用を禁止する措置が取られています。

また、PFOAに関しても同様の国際的規制の枠組みに加わり、日本国内の関連法規に基づき取り扱いが大幅に制限されました。こうした動きを受けて、企業や自治体はPFASを含む化学物質の在庫や使用実態を洗い出し、将来的により広範囲のPFASが規制される可能性を想定しつつ、早めの対応策を検討しているところです。

水質管理に関するPFAS規制

水道水に含まれるPFASの濃度基準は、厚生労働省がガイドラインを設定しています。欧米ではPFAS全般を広く対象とした厳しい規制値が提案されている例もあり、日本においても今後さらに強化される可能性があります。

現在は、地下水や河川水、生活排水などの各ルートについてもモニタリングが強化され、濃度超過が確認されたエリアでは原水の切り替えや、高性能な活性炭フィルターを用いた除去技術の導入が検討されています。

また、浄水場レベルでの処理だけではなく、排水基準へのPFAS適用や、企業排水に対する監視体制の整備など、源流から終端にかけての一貫した水質管理が必要とされています。

輸入・製造に関するPFAS規制

日本では化学物質審査規制法(化審法)によって、特定のPFASを含む製品の製造・輸入・使用に際して事前審査や許可が必要となる場合があります。とくにPFOSやPFOAは厳格に管理されており、それらを含む製品の輸入量や製造プロセスを自治体や国に報告しなければならない場合もあります。

さらに、取扱量が多い事業者には排出抑制計画の策定や、廃棄物処理の適切な方法を求める指針が設けられています。近年はPFAS全般への警戒感が高まっているため、今後はPFHxSなどほかのフッ素化合物についても規制の範囲が拡大する可能性があり、国内産業界への影響が広がると予想されています。

日本のPFAS規制に関する各省庁の取り組み

厚生労働省は飲料水の安全基準を見直しており、PFASに関する許容濃度や検査方法の整備を進めています。環境省は自治体と連携して全国規模の水質調査を行い、汚染の分布と濃度を把握しつつ、防除策に関する指針をまとめています。

経済産業省は製造業界や輸入業界に対する調査を実施し、化学物質管理の観点から企業のモニタリング体制を強化する動きを後押ししています。加えて、消防庁や国土交通省なども消火泡剤や工事現場での使用に伴うリスクを洗い出し、それぞれの分野でガイドラインやマニュアルの作成を進めています。

こうした各省庁の取り組みが連携して動くことで、より統合的かつ効果的なPFAS対策が期待されています。

日本企業にも求められるPFAS対策

企業には、製品や生産プロセスで使用しているPFASの種類と量を正確に把握し、排出量や廃棄物管理におけるリスクを低減する義務が高まっています。具体的には、在庫や使用実態を整理し、環境負荷が少ない代替化合物への切り替えを検討するとともに、排水処理や廃棄物処分の工程を見直す取り組みが必要です。

特に海外に製品を輸出する企業は、欧米などでより厳しい規制が施行されつつある点を踏まえ、グローバルな視点で物質管理を進めることが求められます。さらに、消費者や社会からの信頼獲得を重視するうえでも、企業の自主的な情報公開と安全対策の強化は不可欠です。

サプライチェーン全体で協力しながら、PFASに頼らない技術を開発し、環境負荷の低減と事業の持続可能性を両立させる姿勢が求められているといえるでしょう。こうした取り組みは、先進的な環境対策への投資として評価される可能性もあり、企業のイメージ向上や新たなビジネスチャンスにつながる展望も期待されます。

日立ハイテク、東京科学大学とPFAS迅速検出の共同研究を開始

各省庁が規制や監視体制を強化する中、PFASの迅速かつ簡便な検出を実現する技術開発も進められています。とりわけ注目されているのが、株式会社日立ハイテクと東京科学大学(2024年10月に誕生した新しい国立大学)が共同で開始した研究です。

日立ハイテクが提供する独自のデータベースを用いた化合物探索支援サービスである「ケミカルズ・インフォマティクス(CI)」と、東京科学大学が有するペプチドによる検出・識別技術を組み合わせ、
極めて低濃度のPFASでも相互作用を示すペプチドを効率的に探索・生成することをめざしています。こうした新技術が確立されれば、PFAS汚染のモニタリングや除去対策が格段にスピードアップし、水道水の安全確保に大いに貢献すると期待されています。

今後は、実証実験を重ねることで、PFASと相互作用するペプチドのPFAS除去への活用についても検証する予定です。持続可能な社会を実現するうえで、こうした最先端技術は大きなカギとなるでしょう。

参照元:日立公式HP https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2025/01/0128.pdf

マテリアルズ・インフォマティクスとは

材料開発においてデータ解析を活用するアプローチとして注目されているのが、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)です。 本記事で紹介したような化学物質の研究開発にも応用が進んでいます。詳しくは以下の解説ページをご覧ください。

専門的な領域を持つMIベンダーを選ぶ重要性

MIベンダーの中には、専門領域を持つ企業があります。各ベンダーが保有するデータの質と量は解析精度に大きく影響し、研究開発のスピード向上やコスト削減につながります。そのため専門領域で強みを持つベンダーのMIを選ぶことが重要です。

マテリアルズインフォマティクス(MI)の成功事例

従来型の材料開発と比較し大幅な開発期間の短縮ができたMIの事例は国内外問わず多数報告されており、企業の研究開発プロセスを飛躍的に改善し、競争力を高めることができるため、MIを導入する価値は非常に高いといえます。ここでは国内の企業のMIの成功事例をご紹介します。

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