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マテリアルズインフォマティクス(MI)の導入に失敗するケースと解決策

目次

マテリアルズ・インフォマティクス(MI)は、AIやデータ解析を用いて材料開発を効率化する革新的な手法として注目され、多くの企業で導入が進んでいます。 しかし現実には、「導入したけれど使いこなせない」「社内に定着しなかった」といった悩みを抱える企業も少なくありません。

その背景には、データ品質のばらつきや属人化、組織文化の抵抗、既存システムとの統合の難しさなど、さまざまな壁が存在しています。これらの課題を放置すると、MIは単なる“導入実績”に終わり、現場での価値を発揮できずに解約や中断につながることもあります。この記事では、MI導入時によく見られる失敗パターンとその解決策を整理し、失敗を回避しながら成果につなげるためのヒントをお伝えします。

MIの失敗例と解決策

MIの失敗例と解決策イメージ MIの失敗例と解決策イメージ

失敗例 1: データ品質の低さ

MIは、データ駆動型のアプローチによって材料設計や開発を効率化する技術ですが、その成功には高品質なデータが不可欠です。データ品質が低い場合、モデルの予測精度が大きく低下し、信頼性の高い結果が得られなくなる可能性があります。材料特性の予測において、データに欠損やノイズが含まれていると、機械学習モデルが適切なパターンを学習できず、精度の低い予測を行ってしまうことがあります。

そのため、データクリーニングは非常に重要です。データクリーニングとは、データセットから欠損値やノイズを除去し、モデルが最適な結果を得られるようにするプロセスです。この段階でクリーニングされない場合、機械学習モデルの学習は誤った方向に進み、最終的に精度の低い予測や解析結果を生むことになります。

解決策

データ品質向上には、まずデータ収集前に必要なデータの種類と品質を明確にし、計画を立てることが重要です。

次に、収集プロセスで正確性と一貫性を確保し、欠損値やノイズに対しては、統計的手法を用いて補完・除去を行います。また、データの品質を維持するためにモニタリング体制を整え、異常が発生した際には迅速に対処することが求められます。

これらの取り組みを継続的に行うことで、MIの信頼性と精度を高めることが可能です。

失敗例 2: 専門知識の不足

MIは、データサイエンスや機械学習、材料科学などの複合的な知識を要するため、十分な理解やスキルがないと効果的に活用できません。導入に失敗した事例の多くは、こうした専門知識の不足に起因します。

ある企業では、MIを導入したものの、データ分析やモデル構築に必要な知識を持つ社員が少なかったため、システムの運用に問題が発生しました。データの収集や処理が正しく行えず、期待された結果を得ることができなかったのです。

そのため、専門家の活用や社員教育の重要になってきます。MIに精通した専門家の知識とスキルを活用することで、導入や運用に関わる初期のハードルを下げることが可能になります。

解決策

成功には専門知識を持つリソースの確保が必須です。

専門家は、データ収集やモデル構築、解析に関する深い理解を持っているため、運用においてプロジェクトをスムーズに進められます。また、社内チームに対して直接指導やアドバイスが行われることで、知識の共有が進む点も大きなメリットです。

社内のリソース強化のために、トレーニングプログラムを実施するのも有効です。

社員が実践的なスキルを身につけることを目指し、MIの基礎から応用までを体系的に学べるカリキュラムを用意。データサイエンスや機械学習に不慣れな社員に、基礎的な知識から段階的に学ばせることで、導入後の現場での運用を円滑に進めることができます。

また外部のコンサルタントや専門家の支援を受けることも重要です。

導入初期には、企業内部にMIの専門知識が不足している場合が多いため、外部リソースを活用することでリスクを軽減し、スムーズな導入を実現できるメリットがあります。

失敗例 3: 組織文化の抵抗

MIの導入は、技術的な課題以上に組織文化の抵抗によって失敗するケースが少なくありません。新しい技術やプロセスを導入する際、従来のやり方や慣習に固執する組織文化が障壁となり、プロジェクトが思うように進まないことがあります。

よくある事例として、MIの導入を試みたものの、従業員が新しいデータ駆動型のアプローチに対して抵抗。従来の職人的な技術や経験に基づく判断を重視する文化が根強く、新技術への理解や受け入れが進まず、結果的にデータを適切に活用できず、期待された成果が得られないままプロジェクトは停滞するようなケースです。

このような状況では、組織の文化そのものを変える取り組みが必要になるでしょう。

解決策

組織文化の抵抗を克服するには、変革管理手法を導入し、リーダーが積極的に変革を推進することが重要です。

リーダーがMI導入の必要性を理解し、率先して行動することで、従業員の抵抗を減らし、組織全体に新しい文化を浸透させることに繋がります。

全従業員を巻き込むためのコミュニケーション戦略を策定し、MI導入のメリットを具体的に伝えることも、従業員の理解と協力を得られるでしょう。さらに、勉強会などの機会を提供し、双方向の対話を通じて従業員の不安を解消し、長期的に支援する環境作りも重要です。

失敗例 4: システム統合の問題

MIの導入における課題の一つが既存システムとの統合です。

複数のシステムがすでに運用されている企業では、MIツールをうまく連携させないと、データの不一致や作業効率の低下が発生する恐れがあります。統合に失敗すると、業務プロセス全体に悪影響を及ぼし、結果としてシステム運用の複雑化やデータ損失のリスクが増大します。

MIツールを導入した企業が、既存のデータベースとの互換性問題によりデータの連携が滞り、必要な情報をスムーズに取得できず、生産性の低下を招くケースもあります。

解決策

システム統合の問題を回避するには、既存システムとMIツールの互換性を事前調査する事が不可欠です。

データフォーマットや通信プロトコルが異なる場合には、データ変換ツールを使用する必要があります。さらに、統合計画を詳細に立て、どのシステムを優先的に統合すべきかを明確にします。

次にシステムの全体を一度に統合するのではなく、段階的に進めていきましょう

各ステップごとにテストを実施し、フィードバックを反映させながら進行することで、予期せぬトラブルを最小限に抑えることが可能です。各段階での成功を確認しつつ次の統合フェーズに移行するようにしましょう​。

そして、統合プロジェクトには、専門知識を持つスタッフが必要です。システムの特性や技術的な要件を理解しているエンジニアとプロジェクトマネージャーが連携することで、効率的に統合できます

必要に応じて外部の専門家を活用することも効果的です。

失敗を避けるには?
“属人性の解消”や“現場定着”に成功したMI導入事例

背景

巴川コーポレーションでは、製品設計における最適化をベテラン開発者の経験に頼っており、若手の育成には数年を要していました。多品種少量の高付加価値製品をスピーディーに開発するには、属人性を超えた再現性ある技術継承が必要とされていたのです。

目的

ベテランの知見をMIツールで形式知化し、誰でも短期間で活用できる体制を構築すること。
それにより、開発力の底上げとスピードの両立を図ることが導入の最大の狙いでした。

課題

社内にはデータが存在していても、それを活用する知識が属人化しており、若手エンジニアにとってはツールの設定や分析結果の解釈が難しく、MIは“使えるが定着しない”状態に陥っていました。

取り組み

日立ハイテクのデータサイエンティストが現場に伴走し、実データを用いた分析設計のフロー構築から、特徴量の選定・解釈までをハンズオンで支援。ツールの操作方法だけでなく、ベテラン開発者の思考を“再現できるように教える”プロセスを重視しました。

成果

これにより、開発経験の浅い若手エンジニアが2〜3ヶ月という短期間で成果を出せるようになり、「MIでベテランの勘所を再現できる」状態を実現。属人性の解消と人材育成の両立が進み、現場への定着と組織内の横展開にもつながっています。

参照事例:株式会社巴川コーポレーションのMI導入事例(日立ハイテク)

専門的な領域を持つMIベンダーを選ぶ重要性

MIベンダーの中には、専門領域を持つ企業があります。各ベンダーが保有するデータの質と量は解析精度に大きく影響し、研究開発のスピード向上やコスト削減につながります。そのため専門領域で強みを持つベンダーのMIを選ぶことが重要です。

SELECTIONS
専門的な領域に強みを持つ
マテリアルズインフォマティクスの
ベンダー3選

専門領域を持っているMIベンダーを厳選しました。
自社の研究対象に近しい領域を専門としているMIベンダーの方が、
コミュニケーションにズレがなく、知見や実績も豊富な可能性があります。

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