高機能材料の開発において、試行錯誤を繰り返す従来の手法は、時間とコストの負担を重くしてきました。アイクリスタル社も例外ではなく、数千通りに及ぶ材料組成の中から最適解を見つけ出すには、実験データの蓄積と評価を幾度も重ねる必要がありました。その結果、開発スケジュールが長期化し、市場投入までのリードタイムが伸びてしまうという課題に直面していました。
こうした現状を打破する鍵として注目されたのが、材料科学とデータサイエンスを融合する「マテリアルズインフォマティクス(MI)」です。本記事では、アイクリスタル社が遭遇した開発効率の壁を俯瞰し、MIを活用して得られた具体的成果を解説します。
アイクリスタルが手がける高機能材料は、複雑な化学組成や微細な構造制御が求められます。しかし、従来の研究開発プロセスでは、設計した材料を合成し、性能試験を行うという反復サイクルを何度も繰り返す必要があり、ひとつの新規材料を市場投入レベルに高めるまでに数年を要すことも珍しくありませんでした。
また、材料の組成候補は数千種類に及ぶため、すべてを試すことは物理的に不可能でした。さらに、測定データや試作条件が社内の異なる部門に散在し、一元的に活用できない状態も課題でした。こうした状況では、新たな材料の開発に必要な知見を得るための時間とコストが膨大になり、競争力を維持するうえで大きな足かせとなっていました。
アイクリスタルはこの課題を解決するため、MIの専門チームを社内に立ち上げ、機械学習モデルと実験データを組み合わせて材料探索の効率化を図りました。まず、過去の合成実験データや物性評価結果を統合し、材料組成や合成条件を説明変数、得られた特性値を目的変数とするデータセットを構築しました。
このデータを使って構築した予測モデルは、新たな組成がどの程度の性能を示すかを高い精度で予測し、従来の経験的手法と比べて数倍の探索効率を実現しました。具体的には、従来一年かかっていた試作検証サイクルをわずか数カ月に短縮し、しかも成功率が向上したことで開発コストが大幅に削減されました。
さらに、実験とシミュレーションを組み合わせるハイブリッドアプローチを導入したことで、物理的な要因を考慮に入れた深い知見が得られるようになり、設計段階でのミスリードを減らすことにも成功しています。
参照元:アイクリスタル公式HP
https://aixtal.com/wafer-polishing/
材料開発の現場では、単に候補を絞り込むだけでなく、開発から量産、さらにはリサイクル段階までを網羅するデータ駆動の仕組みづくりが求められています。アイクリスタル社では、次世代のMIプラットフォームを視野に入れ、開発プロセスにおけるリアルタイム解析の導入を計画しています。
装置やセンシング機器から得られる膨大なデータをAIモデルで即座に評価し、最適条件を自動提案する仕組みが構築されれば、開発速度は一層加速するでしょう。加えて、プロセスインフォマティクスとの連携によって、材料合成だけでなく製造ライン全体の最適化を図る動きも進んでいます。
この流れは、材料メーカーだけでなく、半導体や自動車、エネルギー産業など広範な分野に波及する可能性を秘めています。将来的には、MIとPIが連携した「設計から量産、廃棄に至る一貫最適化」が一般的となり、製品ライフサイクルの全段階で価値を最大化する新たなパラダイムが確立されるでしょう。
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