半導体領域における高分子材料では、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)が活用されています。新規有機半導体材料の特性予測や設計において、MIがどのように活用されているのか紹介します。
半導体は、現代の技術社会において不可欠な存在であり、その性能は使用する材料に大きく依存します。半導体材料には、シリコンをはじめ、複数の化合物や次世代の素材としてダイヤモンドが研究されています。それぞれの材料には異なる特性があり、用途に応じた最適な選択が重要です。
半導体材料として一般的に使われるのはシリコンです。シリコンは地球上に豊富に存在し、極めて高い純度に加工することが可能なため、安定した供給と高性能を両立しています。また、シリコンは微細な加工がしやすく、集積回路の製造において優れた特性を持ちます。
一方で、シリコン以外にも、化合物半導体が注目されています。化合物半導体は、複数の元素を組み合わせることで、シリコンを超える性能を発揮します。化合物半導体は電子の移動度が高く、より高速な動作が可能です。
また、光の吸収や放出、磁気への感応性、さらには高温環境での耐久性など、多様な特性を持ち、LEDや太陽電池、モーター制御など様々な分野での活用が期待されています。しかし、化合物半導体はシリコンに比べて加工が難しく、コストが高くなる点が課題です。
さらに、次世代の半導体材料としてダイヤモンドも研究されています。ダイヤモンド半導体は、シリコンと比較して大幅な電力効率の向上や高速動作が期待されていますが、高硬度ゆえに加工が難しく、実用化には至っていません。しかし、将来的にはダイヤモンドを使用した半導体が普及することで、より高度な技術革新がもたらされる可能性があります。
これらの多様な半導体材料は、それぞれ異なる特性を持ち、用途に応じた選択が求められます。
有機半導体材料における新しい分子の探索は、エレクトロニクス分野において大きな進展をもたらす可能性があります。ルブレンより高い電荷移動度を持ち、かつHOMO(最高被占軌道)エネルギーレベルが深い分子の発見は、次世代のデバイス性能向上に貢献します。実現するためにMIを活用し、大規模な構造探索を行い、効率的かつ精度の高い新材料候補の提案を目指しました。
構造探索の基本的な流れは、まず目標とする特性を設定し、それに基づいた化合物構造を生成・評価することから始まります。このプロセスでは、MIを活用し、機械学習モデルを駆使して効率的な構造探索が行われます。今回の探索では、電荷移動度が高く、HOMOが深い有機半導体材料を目標に設定しました。Marcus理論に基づき、再配向エネルギーが低い化合物が高い電荷移動度を持つと仮定し、探索条件を再配向エネルギーとHOMOの深さに設定しました。
探索条件として設定されたのは、再配向エネルギーとHOMOのエネルギーレベルです。Marcus理論によると、再配向エネルギーが低いほど電荷移動度が高くなるため、これを最適化の対象としました。具体的には、既存の化合物データをもとに再配向エネルギーとHOMOを計算し、それらの値を教師データとして使用しました。
教師データには、公開データベースから収集した有機半導体材料に関するSMILES(Simplified Molecular Input Line Entry System)のデータが使用されました。化合物の初期構造を生成し、量子化学計算を通じて再配向エネルギーやHOMOのエネルギーレベルを計算しています。教師データセットが構築され、特性予測のベースとなりました。
次に、教師データを用いて特性予測モデルを構築します。勾配ブースティング法を用いた機械学習モデルを作成し、再配向エネルギーとHOMOのエネルギーレベルの予測を行いました。このモデルの精度を確保するために、クロスバリデーションによる評価も実施。未知の化合物に対しても高精度な特性予測が可能となりました。
特性予測モデルの構築後、未来の化合物構造を生成するモデルを作成しました。このモデルは、自然言語処理アルゴリズムをSMILESデータに適用することで構築され、新規の化合物構造を自動生成します。生成された化合物構造は、特性予測モデルによって評価され、目的の特性に合致するかどうかが判断されます。
未来構造生成モデルによって生成された新規化合物の構造は、特性予測モデルによって評価されました。このプロセスは、構造生成と特性予測のサイクルを繰り返すことで行われます。サイクルを繰り返すことにより、特定の条件を満たす未知の化合物の効率的な探索が可能です。
探索の結果、332種の新規化合物が候補として得られました。さらに、量子化学計算によってそれらの特性を評価した結果、191種の新規化合物がルブレンよりも高い電荷移動度と深いHOMOを持つことが確認されました。このようにして、ルブレンを超える性能を持つ有機半導体材料の候補が明らかになり、今後の材料開発に大きな貢献を果たすことが期待されます。
参照元:一般財団法人材料科学技術振興財団 https://www.mst.or.jp/Portals/0/case/pdf/c0652.pdf
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