日本タングステンでは、精緻な線径が求められるタングステン線材の製造工程において、従来はダイスを用いた伸線加工後のワイヤ径検査を手作業で行ってきました。
しかし、この方法は熟練技術者の判断に依存し、新人が同じ精度を得るには長い習熟が必要でした。さらに、新規ダイス導入時にはワイヤドロー機を使わない「手引き加工」で規格内かを確認する必要があり、生産立ち上げのたびに多くの工数がかかっていました。
本記事では、こうした課題に対して日本タングステンが導入したマテリアルズインフォマティクスの取り組みを紹介し、AIによる線径予測モデルの成果と今後の展望について解説します。
タングステン線材の品質を担保するためには、ダイスを通した後のワイヤ径が±2%以内に収まっているかを確認する必要があります。従来は専用測定器(CU11)を使って定められた時間内に検査を実施し、合否判定をしていましたが、それでも測定の準備や手引き加工自体に熟練度が求められ、生産スケジュールに余裕がない状況ではボトルネックになりやすいという問題がありました。
特に、微細径の「ファイン」や「ウルトラファイン」と呼ばれる領域では、画像解像度の限界から測定誤差が大きくなることもあり、判定基準を満たしにくいケースが散見されました。このように、検査作業と品質判定の確実性を両立させるためには、作業効率とデータの信頼性を同時に引き上げる手法が求められていました。
日本タングステンは、ダイスの穴径、丸み、縮小角、ベアリング長さやその差、ずれ量といった六つの形状パラメータを説明変数に、手引き加工後のワイヤ径を目的変数とするAIモデルをPythonで構築しました。機械学習アルゴリズムとして線形回帰、ランダムフォレスト、ニューラルネットワークを比較し、検証にはデータ数が限られることから一データずつ検証に回す「Leave-One-Out」方式を採用しました。
その結果、四つの標準サイズ(Coira、MB、Fine、Ultrafine)のうち、全サイズで誤差を±2%以内に抑えたのは線形回帰モデルだけであることが分かり、この手法を正式に採用しました。実際の検証ではMBサイズの40試料中37試料で規格内判定を達成し、従来の手作業比で検査時間を大幅に短縮すると同時に、新人でも安定した測定が可能になりました。
特にFine領域で誤差が2%を超える試料が散見されたため、粒度を細かく分割して学習データを補強する戦略を取り入れた結果、こちらも基準内に収められるようになりました。
参照元:日本タングステン公式HP
https://www.nittan.co.jp/member/admin/document_upload/4_Wire_Diameter_Prediction_for_Wire_Drawing_Process.pdf
今後は、ウルトラファイン領域に関する検証データをさらに拡充し、画像解像度に依存しない測定技術の導入が検討されています。具体的には、高解像度の測定装置やAIによる画像前処理を組み合わせることで、微細領域での予測精度向上が期待されています。
また、現場で扱いやすいユーザーインターフェースを整備し、入力項目や操作手順を簡素化したWebアプリケーションとしての運用も進められています。
さらに将来的には生産ラインと連携し、リアルタイムで予測結果を共有する仕組みを構築することで、異常検知や不良低減への応用も見込まれます。タングステン以外の金属材料や異なる加工工程への展開も視野に入れ、材料科学とデータサイエンスを融合させた新たな品質管理手法の確立が期待されます。
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