日東電工(以下Nitto)は、絶縁材料や高機能素材を手がける老舗企業として、製品開発のスピード向上と品質向上を常に追求してきました。しかし伝統的な材料開発では、試作と評価をくり返す手法に多大な時間とコストがかかり、開発ペースが思うように上がらないというジレンマを抱えていました。
そこで Nittoが着目したのが、AIや機械学習を活用して材料設計や特性予測を効率化する「マテリアルズインフォマティクス(MI)」です。日立製作所はMIに特化したコンサルティングと、実験データ解析のための環境をセットで提供する体制を整えており、Nittoの研究開発本部データサイエンスグループと協働しながら、MI活用の第一歩を踏み出しました。
従来の材料開発では、実験データそのものが限られているうえ、扱うパラメータや条件が多岐にわたるため、データ数は十数件というケースが珍しくありません。データサイエンティストの立場からすれば取り扱いにくく、AI モデルの精度を高めるには不十分な状況でした。
さらに、材料開発担当者とデータ分析担当者では専門用語や考え方が異なるため、両者のコミュニケーションには時間を要し、意思決定のスピードを妨げる要因となっていました。社内でMI を活用しようにも、分析基盤が汎用ツールに頼る形式では、現場の研究者が自ら操作しにくいとの声も上がっており、導入への心理的・技術的ハードルが高い状態でした。
まず日立の提供する「材料データ分析環境」は、Microsoft®Excel®のような使い勝手でAI 解析を実行できるプラットフォームとして稼働し、専門知識がない素材開発担当者でも視覚的にデータを操作できる環境を実現しました。その結果、データサイエンスグループ以外のメンバーが主体的に解析を始められるようになり、取り扱うテーマ数は導入前の約二十倍にまで増加しました。
また、日立のコンサルティングチームが材料分野とデータサイエンスの橋渡し役を担い、判断基準や解析結果の解釈に関する意見を率直に示したことで、社内の信頼感が高まり、議論から意思決定までのリードタイムが大幅に短縮されました。かつてなら数十年かかる可能性のあった気体分離膜の設計検証も、MI を活用することで数か月で完了し、社内での反響を呼びました。
加えて、新入社員向け研修にも分析環境を組み込み、実務レベルの解析ノウハウを交えたハンズオン形式に切り替えたことで、早い段階からMIの理解と応用力を育む流れが定着しつつあります。
参照元:日立公式HP
https://deh.hitachi.co.jp/_ct/17690834
https://deh.hitachi.co.jp/_ct/17690833
Nitto と日立の協働は、すでに定量データを中心とした解析で成果を上げていますが、次のステップとして画像やスペクトルなど多様なデータタイプへの対応が期待されています。素材の微細構造や特性評価データを含む新たな情報ソースを解析できれば、開発の精度と速度はさらに向上するでしょう。
また、分析環境を「日常的に使うツール」と位置づける設計思想は、実験計画から解析、報告までの一連の流れをMI に組み込むうえで重要です。日立側もユーザーの意見を反映しながら、プラットフォームとしての完成度を高め、より直感的な操作性を追求していく計画です。
最終的には、MIが特別な技術ではなく、研究者が当たり前に使いこなす開発手法へと定着し、Nittoの材料開発力を一層強化する基盤となることが期待されます。今後も両社は、技術進化とユーザー体験の両面からMI の可能性を広げていくでしょう。
専門領域を持っているMIベンダーを厳選しました。
自社の研究対象に近しい領域を専門としているMIベンダーの方が、
コミュニケーションにズレがなく、知見や実績も豊富な可能性があります。

化学・素材分野で数多くの開発を成功に導いた実績があります。
日立グループ全体の強みを活かして材料開発を総合的に支援できることから、早期の市場参入を可能にします。

富士通では、創薬に特化したプラットフォームを用意。特許読解、法規制物質チェックにも一貫して対応可能。
特定の材料開発プロセスではなく、創薬研究プロセス全体のDXが叶う点も魅力です。

新しいエネルギー材料の特性を正確に予測する「Mat3ra」(旧Exabyte.io)プラットフォームを提供。
新しいバッテリー材料や軽量合金の開発をスピーディーに進められることが可能です。