マテリアルズ・インフォマティクス(MI)は、AIと膨大な実験データを掛け合わせて材料研究を飛躍的に加速させる手法として注目されています。本記事では、合成ゴムの量産化を日本で初めて実現した日本ゼオン株式会社が、GUI操作だけで高度な特徴量抽出とモデリングを行えるdotDataを全社導入し、解析工数を100分の1に圧縮するなど圧倒的な成果を挙げた成功事例を詳しく紹介します。
まず障壁となったのは人と時間の不足です。年間数十件に上る解析依頼を担当していた基盤技術研究所(基盤研)は、データサイエンス技能を備えた研究員が限られており、膨大な前処理や統計解析に多くの工数を割かれていました。その結果、本来注力すべき高度なモデリングや仮説検証の時間が圧迫されそんな“ボトルネック”が顕在化していたのです。
次に変数の爆発。主剤・添加剤・充填剤などが複雑に絡む材料は、組み合わせが数千パターンに及びます。手作業では変数選択に限界があり、重要因子の見落としも起こり得えます。一方、従来型のAIプラットフォームは操作が煩雑で、現場の研究員が自力で扱うにはハードルが高いという矛盾も抱えていました。
突破口となったのが、GUI操作で特徴量抽出とモデリングを一気通貫で自動化できるdotDataの導入です。同社は2017年ごろからMI活用を本格化し、dotDataを全社に展開。基盤研がコアとなりながらも、現場研究員自らがデータ解析を回せる体制を敷くことで“データ民主化”を実現しました。
象徴的なのが約1500台のセンサーを備える工場ラインの不良率低減プロジェクトです。dotDataはわずか数個の重要センサーに原因を絞り込み、従来の100分の1の工数で不具合要因を特定。センサー数削減によるコストダウン効果まで視野に入る成果を挙げました。さらに汎用ゴム製造工程の温度変動を捉えて改善ポイントを提示するなど、製造プロセス全体の最適化にも寄与。
こうした成功体験が“共通言語”となり、社内の議論は「次はどのデータを追加すべきか」「この変数で精度を伸ばせるか」といった前向きなものへ変化しました。データサイエンティストは基礎解析から解放され、計算化学モデルの高度化やシミュレーション統合など、より付加価値の高い業務へシフト。結果として研究開発のサイクルは短縮し、顧客要求に対する提案スピードも向上しています。
参照元:dotData公式HP https://jp.dotdata.com/resources/case-study/accelerate-materials-informatics-innovation-with-a-new-infrastructure-for-research-and-development/
MI基盤の整備が進んだ今、日本ゼオンは次のステージとして「CO₂排出量の推定・削減」や「コト売り(データや知見をサービスとして提供する新規事業)」に照準を合わせています。工場由来の不揃いなプロセスデータにもdotDataで指針を示し、カーボンニュートラル施策を加速させると同時に、長年蓄積してきた材料データベースを高速に検索・分析し、顧客の開発スケジュールに即した“ファーストアンサー”を提示する体制を構想中です。
鍵となるのは、データドリブンな示唆と物理・化学の理論を組み合わせる「ハイブリッド型研究開発」。dotDataが提示する特徴量の背後にある科学的メカニズムを研究員が解釈し、モデル補強を図ることでさらなる精度向上と知見の深掘りを狙います。MIはもはや一部の専門家だけのツールではなく、“読み書き・そろばん・AI”に数えられる基礎スキルへと進化しつつあります。日本ゼオンはこの土台を武器に、材料開発のフロントランナーとして持続可能な社会と新たな価値創造を両立させることを目指しています。
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