本記事では、材料開発のDXを加速させる「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)」について、成功例をもとに「結局、何ができるのか?」「自社でどう活用すべきか?」という疑問を解決します。
膨大な情報の中から、以下の3つのポイントを軸に構成しています。
ベテランの勘に頼る材料開発から、誰もが成果を出せるデータ駆動型プロセスへ。開発期間の短縮と若手育成を両立させた「具体的なステップ」を大公開します。

マテリアルズインフォマティクス(Materials Informatics, MI)とは、材料科学にデータ科学を取り入れ、実験データや計算・シミュレーションデータなどを活用しながら、材料の特性や挙動を予測したり、有望な候補を探索したりするアプローチです。機械学習や統計解析を使うケースも多く、材料の「組成・構造・製造条件」と「物性」の関係を、データから捉えて意思決定に役立てます。
従来の材料開発は、検証すべき組み合わせが膨大であることや、評価に手間がかかることから、試行錯誤の実験を重ねる場面が少なくありませんでした。その結果、テーマや要求水準によっては開発に長い時間とコストがかかることもあります。
マテリアルズインフォマティクス(MI)は、実験の代替というよりも、実験・計算・シミュレーションを含むさまざまなデータを整理し、モデル化と探索を組み合わせて「試す順番」と「試す範囲」を絞り込むことで、開発の効率を高めることを目指します。うまく運用できれば、実験回数の削減や探索の早期化につながる可能性があり、開発スピードやコスト面での改善が期待されています。
材料開発におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)では、データの収集・管理、解析、シミュレーション、自動化、設計判断の高度化など、複数の要素が連動します。マテリアルズインフォマティクス(MI)はその中でも、材料に関するデータを意思決定へつなげるための重要な要素の一つとして位置づけられます。
従来の開発では、研究者の経験知が強みになる一方で、探索空間の大きさや評価コストの高さから、どうしても「試行→評価→改善」のサイクルが重くなりがちです。マテリアルズインフォマティクス(MI)では、統計解析や機械学習、シミュレーション(第一原理計算など)を目的に応じて組み合わせ、実験に着手する前に候補を整理したり、検証すべき条件を優先順位づけしたりする設計が取りやすくなります。
また、マテリアルズインフォマティクス(MI)の活用は「当てること」だけがゴールではありません。モデルの精度はデータ量や品質、対象材料、評価条件の揺れによって変わるため、予測値を盲信するのではなく、不確実性を含めて候補を絞り込み、実験で検証し、結果を学習データとして戻して改善する運用が現実的です。こうした運用を通じて、研究者が「何を次に試すべきか」をより筋の良い根拠で判断しやすくなり、開発プロセス全体の再現性や継続性の向上に寄与します。
素材産業を取り巻く環境は、規制、顧客要求、開発スピード、人材構造など複数の要因で変化しています。マテリアルズインフォマティクス(MI)が注目される背景としては、代表的に次のような論点が挙げられます。
欧州を中心にPFAS(有機フッ素化合物)を含む化学物質の取り扱いに関する議論や制度整備が進んでおり、企業側には代替候補の探索や、使用量削減・設計変更の検討が求められる場面が増えています。こうした状況では、実験だけで候補を広く洗い出すのが難しいため、既存データや計算・シミュレーションの結果を使って、代替候補の探索を前倒しする考え方としてマテリアルズインフォマティクス(MI)が活用されることがあります。
スマートフォンや電気自動車(EV)などの分野では、技術や市場要求の変化が速く、材料に求められる性能も更新されやすい傾向があります。そのため、開発の初期段階で探索の方向性を誤ると、後工程で手戻りが大きくなりやすく、競争上の不利につながる可能性があります。マテリアルズインフォマティクス(MI)は、探索の初期段階で「見込みのある領域」を絞り込みやすくする手段として、意思決定の速度と質の両面を支える役割が期待されています。
製造業・素材産業では、熟練者の高齢化や人材流動性の高まりを背景に、ノウハウの共有・形式知化が課題として挙げられることがあります。マテリアルズインフォマティクス(MI)は、暗黙知をそのまま置き換えるというより、実験条件や評価結果、失敗も含む履歴をデータとして整備し、若手が「再現可能な判断材料」にアクセスできる状態をつくるための基盤として機能します。適切なデータ整備と運用設計が伴えば、属人的な判断に依存しやすい領域でも、学習と改善のサイクルを回しやすくなります。

材料開発では、材料そのものの「組成」だけでなく、それをどう作るかという「プロセス(製造条件)」が物性に大きく影響します。したがって、組成の探索と同時に、温度、圧力、時間、混練条件、熱処理条件などの最適化が重要になるケースは少なくありません。
このとき、製造プロセスに関するデータを収集・解析し、品質や歩留まり、性能のばらつきを抑えるために条件最適化を行う取り組みは、「プロセス・インフォマティクス(PI)」などと呼ばれることもあります。ただし、用語や適用範囲は文献や現場での使われ方に揺れがあるため、本稿では「プロセスデータの活用による条件最適化」という意味で扱います。
両方が重要な理由はシンプルです。どれだけ有望な組成(マテリアルズインフォマティクス(MI)の成果)を見出しても、製造条件が適切でなければ狙った物性が得られないことがあります。逆に、製造条件をどれほど丁寧に管理しても、組成の選択が不適切であれば性能の到達点に限界が出ることがあります。
近年は、組成(材料側)とプロセス(製造側)を分けて最適化するのではなく、両者の相互作用を踏まえて統合的に設計・最適化しようとする取り組みも増えています。ただし、すべてを一気通貫で自動最適化できるというより、データ基盤の整備、評価指標の統一、現場実装の制約(設備・コスト・安全・品質規格)を踏まえながら、段階的に対象範囲を広げていく進め方が現実的です。

最も導入効果が見えやすく、多くの企業が最初に取り組みやすいパターンです。膨大な組み合わせの中から、次に試す価値が高い条件や候補をデータ解析で絞り込み、試作・検証の回数と手戻りを減らしていきます。
ここでいう「成功企業の共通項」は、AIモデルそのものの精度だけではなく、現場の意思決定を前に進めるための準備と運用に共通して現れる要点です。自社のデータ状況や開発プロセスに照らし合わせ、取り入れやすいところから整えることが近道になります。
過去の実験・測定データを整備し、成功だけでなく失敗データも含めて学習・分析に活用しています。あわせて、予測結果を「次に試す候補の優先順位」に変換し、実験計画に戻す運用まで落とし込むことで、探索が止まらない形をつくっています。
試作回数の削減、探索期間の短縮、開発サイクルの圧縮が起きやすくなります。削減幅はテーマやデータ条件に依存しますが、「試す前に絞れる」状態をつくれるほど効果が出やすくなります。
「なぜかこの人のレシピだとうまくいく」といった暗黙知を、再現可能な形に落とし込み、組織全体で使える資産に変えるパターンです。若手の立ち上がりを早めつつ、判断のばらつきを減らすことを狙います。
ここでいう「成功企業の共通項」は、熟練者の感覚を“そのままAIに置き換える”ことではありません。判断の材料になっている情報を言語化・数値化し、現場が説明できる形で再現性を上げていく取り組みとして共通しています。
熟練者の判断基準や実験ノート、現場の勘所を、数値化・特徴量化して分析に組み込み、結果の読み解きまで含めて現場で回せる形にしています。あわせて、ツールを「使える」状態で止めず、「意思決定が早くなる」思考プロセスとして定着させています。
属人化の解消、技術継承の加速、若手育成の短縮、判断品質の平準化につながりやすくなります。
既存の延長線上では見つけにくい候補や条件を、シミュレーションやデータベース探索なども組み合わせて広く探索するパターンです。「候補を作る/集める→絞る→検証する」の流れを強化し、探索の限界を押し広げます。
ここでいう「成功企業の共通項」は、探索規模をただ増やすことではなく、探索・評価の役割分担を決め、実験の設計と解釈に人の時間を戻す設計にあります。人手だけでは扱い切れない探索規模を前提に、候補生成と絞り込みの仕組みを整えています。
外部データベースや計算・生成の仕組みで探索空間を拡張し、機械学習で有望候補を効率的に絞り込んでいます。検証フェーズでは、人が「何を確かめるか」の設計に集中できるように、候補提示の段階で選別の粒度を揃えています。
探索範囲の拡大、候補抽出の高速化、未踏領域の検討加速につながりやすくなります。成果の出方はテーマとデータ条件に依存します。
巴川コーポレーションでは、製品設計における原料や製造条件の最適化をベテラン開発者の経験と勘に頼って進めていました。しかし、多品種少量の開発を短期間で進める必要が高まり、開発スピードと若手育成の両立が課題になっていました。
そこで同社は、ベテランの知見を形式知化し、若手にも再現できる形で引き継ぐ仕組みを必要としていました。あわせて、開発プロセスを標準化し、製品化までの時間を短縮することも目指していました。
社内にはデータがあっても、整備や分析のノウハウが十分に共有されておらず、MIを現場で活用しきれていませんでした。特に若手エンジニアは初期設定やアルゴリズム理解でつまずき、「使えるが使いこなせない」状態に陥っていました。
この課題に対し、日立ハイテクのデータサイエンティストが伴走支援を実施しました。分析設計のフロー構築から実データを使った指導までを一貫して行い、ツールの操作だけでなく、成果につなげる考え方まで現場に定着させた点が特徴です。
その結果、経験の浅い若手エンジニアでも、2〜3ヶ月でMIを活用し、ベテランに近い設計判断ができるようになりました。属人化していた知見も可視化され、他の若手メンバーへ展開しやすい状態になっています。
さらに、開発スピードも向上し、従来より約30%早く市場投入できる体制づくりが進みました。人材育成と開発効率化を同時に進めた事例といえます。
参照元:日立ハイテク公式サイト https://www.hitachi-hightech.com/jp/ja/products/ict-solution/randd/cacestudy/001.html

マテリアルズインフォマティクス(MI)は、実験・解析・シミュレーションで得られる材料データを学習し、候補選定や条件探索を効率化する手法です。本章では、マテリアルズインフォマティクスを実務で使える形に落とし込み、探索期間の短縮や試作回数の削減につなげた国内外の成功事例を、業界別に整理しました。
トレンド:化学・素材のマテリアルズインフォマティクス(MI)では、物性予測による「試行錯誤の最小化」と「代替材料探索」が進んでいます。化学・素材では、無数にある化合物や添加剤の組み合わせをどう効率化するかが共通課題です。近年はPFASを含む化学物質規制の動向や環境要件の変化を背景に、代替材料探索を効率化する文脈でMIの活用が進んでいます。
トレンド:自動車・輸送機器のマテリアルズインフォマティクス(MI)では、軽量化・電動化に伴う材料と設計条件の探索を、早い段階で収束させる動きが強まっています。近年は、CAEや実験データを統合して性能・耐久の見通しを立て、試作回数を抑えながら開発サイクルを短縮する用途でMIが広がっています。
トレンド:電子部品・電機/ITのマテリアルズインフォマティクス(MI)では、少ないデータからでも当たりを付ける設計・条件出しが重視されています。近年は、画像・スペクトルなどの計測データを特徴量として取り込み、条件出しと評価の往復回数を減らす使い方でMIが定着しつつあります。
トレンド:エネルギー・資源/インフラのマテリアルズインフォマティクス(MI)では、規制対応や安全・信頼性の要求を満たしつつ、候補探索の「範囲拡大」と「絞り込み精度」の両立が焦点です。近年は、社内データと外部データベースをつなぎ、大規模な候補群から検証の優先順位を付ける用途でMIが活用されています。
トレンド:金属・材料加工/重工・機械のマテリアルズインフォマティクス(MI)では、材料そのものだけでなく加工条件と品質の関係を“再現可能にする”動きが強まっています。近年は、工程データと解析・シミュレーションを組み合わせ、歩留まり改善や立ち上げ短縮につなげる用途でMIが使われています。
トレンド:研究機関・スタートアップ/ベンダー領域のマテリアルズインフォマティクス(MI)では、手法の実装と現場で使える形への落とし込みが進んでいます。近年は、共同研究で得た高品質データやモデルを基に、探索・予測・解釈をワークフローとして提供し、現場適用を早める取り組みが増えています。
マテリアルズインフォマティクス(MI)は魔法の杖ではありません。導入企業の多くが直面する「3つの壁」をあらかじめ理解し、
対策を講じることが成功の絶対条件です。
マテリアルズインフォマティクス(MI)における最大の障壁は「AIに学習させるデータの質と量」です。
材料開発の現場では、数千・数万といった大量のデータが揃っていることは稀です(小データ問題)。また、過去の実験ノートが紙ベースだったり、成功データのみが記録され「失敗データ」が捨てられていたりすることも、解析の精度を著しく下げます。
「少ないデータでも解析可能なアルゴリズム(ベイズ最適化など)」を選択すると同時に、「負(失敗)のデータ」を資産として再定義し、データベース化することが重要です。また、シミュレーション(計算科学)で仮想的なデータを生成し、実験データを補完する「ハイブリッド手法」も有効です。
「ツールは入れたが、誰も使いこなせない」「解析結果を現場が信じない」という、組織の分断です。
データサイエンティストは材料の物理的意味を理解せず、実験者はAIのアルゴリズムをブラックボックスとして敬遠する。この「共通言語の欠如」がプロジェクトを停滞させます。
理想は「データがわかる材料研究者(シチズン・データサイエンティスト)」の育成です。まずは、解析結果とベテランの勘が「一致する」ことを証明する「確かめ算」から始め、AIを「ライバル」ではなく「高度な分身」として信頼してもらうプロセスが不可欠です。
市場には多くのマテリアルズインフォマティクス(MI)ツールがありますが、自社に合わないものを選ぶと「高い授業料」で終わります。
「何でもできる汎用的なAIプラットフォーム」は、自由度が高い反面、初期設定や専門知識のハードルが非常に高くなります。一方で、特定領域に特化しすぎたツールは、研究の広がりを制限する可能性があります。
まずは「特定の課題(例:ポリマーの物性予測)」に強い領域特化型ツールでスモールスタートし、成功体験を積むのが定石です。その際、将来的に自社の基幹システムや他部署のデータと連携できる「拡張性」があるかを確認してください。
マテリアルズインフォマティクス(MI)導入における「データ・人材・ツール」の壁を自社単独で乗り越えるのは容易ではありません。特にツールの選定においては、汎用的なシステムで消耗するのを避け、自社の研究対象に近い専門領域を持つパートナー(ベンダー)を選ぶことが成功の近道となります。
以下に、それぞれの専門領域で知見と実績を持つ代表的なマテリアルズインフォマティクス(MI)ベンダーを厳選しました。自社の課題に合わせた最適な相談先を見つけるための参考にしてください。
専門領域を持っているMIベンダーを厳選しました。
自社の研究対象に近しい領域を専門としているMIベンダーの方が、
コミュニケーションにズレがなく、知見や実績も豊富な可能性があります。

化学・素材分野で数多くの開発を成功に導いた実績があります。
日立グループ全体の強みを活かして材料開発を総合的に支援できることから、早期の市場参入を可能にします。

富士通では、創薬に特化したプラットフォームを用意。特許読解、法規制物質チェックにも一貫して対応可能。
特定の材料開発プロセスではなく、創薬研究プロセス全体のDXが叶う点も魅力です。

新しいエネルギー材料の特性を正確に予測する「Mat3ra」(旧Exabyte.io)プラットフォームを提供。
新しいバッテリー材料や軽量合金の開発をスピーディーに進められることが可能です。
マテリアルズインフォマティクス(MI)は、決して大企業や一部のデータサイエンティストだけのものではありません。導入を成功させる最大の秘訣は、最初から完璧なデータや大規模なシステムを求めず、「小さく始めて、素早く成功体験を積む(スモールスタート)」ことです。
例えば、この記事でも紹介したデクセリアルズ株式会社では、少人数の推進チームで マテリアルズインフォマティクス(MI)の実装をスタートしました。プログラミング不要のツールを導入してPoC(概念実証)環境を素早く構築し、身近な課題から検証を進めた結果、過去に約2年を要した開発テーマをわずか2ヶ月で完了させるという劇的な期間短縮を実現しています。さらに、データの中から熟練者も気づかなかった新たな知見を見出すことにも成功しました。
「まずは特定のテーマで試してみる」「失敗データも含めて資産にする」といった小さな一歩が、やがて組織全体のリテラシーを変え、属人化からの脱却をもたらします。10年後の激しい素材開発競争を勝ち抜くための準備は、今日、ひとつの小さなデータに向き合うことから始まります。自社の課題に寄り添うパートナーを見つけ、まずは最初の一歩を踏み出してみましょう。
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