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構造用金属材料におけるマテリアルズインフォマティクス(MI)の研究例

目次

マテリアルズ・インフォマティクス(MI)は、情報科学を活用して、構造用金属材料の特性を効率的に予測する技術です。この技術は、従来の破壊試験に依存する方法に代わり、化学組成や熱処理条件を基にした精密な特性評価を可能にしました。蒸気タービンや火力発電プラントに使用される材料の強度や寿命予測において、品質の安定化や管理基準の向上に寄与しています。

構造用金属材料に期待される特性

構造用金属材料に期待される特性イメージ 構造用金属材料に期待される特性イメージ

構造用金属材料は、建設、航空、エネルギー産業など多くの分野で使用されており、その性能は構造物の安全性や耐久性に直結します。これらの材料には、様々な過酷な環境においても高い強度と耐久性を維持することが求められています

構造用金属材料には、まず高い強度が求められます。これは、機械や建物など、外部からの荷重や衝撃に耐えるためです。強度には引張強度や耐力が含まれますが、特に重要なのは、「0.2%耐力」という材料の永久変形が始まる負荷の指標です。耐力が高ければ、荷重に対してより安定した性能が発揮されます。

次に重要なのが耐食性です。構造物は雨風や化学物質に晒されることが多く、材料の腐食が進行すると強度が低下します。特に高温環境で使用される材料では、酸化や錆びへの耐性が必要です。化学組成の制御や表面処理がこの特性を強化します。

さらに、構造用金属材料は加工性にも優れている必要があります。材料が硬すぎると加工が難しく、逆に柔らかすぎると使用時に十分な強度を発揮できません。適切なバランスを保つため、熱処理や合金元素の配合が鍵となります。

最後に、クリープ特性や疲労特性も重要です。発電プラントの高温蒸気配管など、長時間高温で使用される場合には、時間とともに徐々に変形するクリープが問題となります。これを防ぐためには、材料の結晶構造や微量元素の添加が効果的です。また、繰り返し荷重に耐える疲労強度も求められ、寿命予測技術の進歩により、安全性を高めることが可能です。

マテリアルズ・インフォマティクスを用いた
構造用金属材料の研究例

MIにより、従来の試験方法に比べて、材料の強度や寿命の評価が迅速かつ効率的に行われるようになりました。最適な熱処理条件やクリープ特性の予測において大きな成果を挙げており、製品の信頼性向上や製造コストの削減が期待されています。

材料強度特性の予測

蒸気タービン長翼の製造過程において、材料の強度特性は化学組成や熱処理条件に大きく依存します。従来の製造方法では、熱処理後に試験片を採取し引張試験を行うことで、0.2%耐力のばらつきが生じることがありました。このばらつきにより、製品の廃棄や再熱処理が必要になることも少なくありませんでした。

この課題を解決するため、MIを活用して熱処理条件を最適化する技術が導入されます。

具体的には、過去に蓄積された約8,300点のデータを機械学習モデルに基づいて解析し、素材の化学組成や熱処理温度が0.2%耐力に与える影響を予測しました。このモデルでは、XGBoostというブースティングアルゴリズムが使用され、予測精度の高さが確認されています。結果として、適切な時効熱処理温度が導き出され、ばらつきを低減させることに成功しました。

従来の方法では階段状の不連続な耐力予測がされるケースがありましたが、データ数が豊富な代表的な熱処理温度に基づき、2次多項式近似を行うことで、耐力と熱処理温度の関係が連続的に予測できるようになりました。このアプローチにより、製品の耐力が確実に管理基準を満たす確率が向上し、品質の安定化が実現しています。

高温で使用されるフェライト系耐熱鋼(9Cr-1.8W 鋼など)は、火力発電プラントの蒸気配管で広く採用されていますが、これらの材料は長期間の高温環境でクリープ破断という劣化現象が発生します。従来、クリープ特性の評価には大量の破断データを元にしたLarson-Miller Parameter (LMP) 法が使われていましたが、材料のチャージ(ロット)ごとのばらつきを考慮できないという課題がありました。

そこで、MIを用いて、化学組成や熱処理条件に基づくクリープ破断強度の予測技術が開発されました。この技術では、約1580点の学習データを使用し、特に9Cr-1.8W鋼に対する予測精度を向上させるために、CatBoostという機械学習アルゴリズムを採用しています。これにより、材料のクリープ寿命の予測がより精密に行えるようになり、検査時期の適正化やプラントの計画外停止のリスク低減に貢献しています。

加えて、部分依存プロットを用いて化学組成がクリープ破断強度に与える影響を定量的に解析した結果、特に窒素(N)やタングステン(W)の添加量が強度に大きく影響を与えることが確認されました。解析に基づき、最適な化学組成の範囲が明確化され、これを材料調達仕様に反映することで、クリープ破断強度のばらつきが低減され、信頼性の高い材料の調達が可能となりました。

MIを活用した結果、構造用金属材料の特性を迅速かつ正確に予測できるようになったのです。

蒸気タービン長翼の製造においては、時効熱処理温度の最適化により、0.2%耐力のばらつきを従来よりも大幅に低減することができました。また、火力発電プラント用の配管材では、クリープ破断強度を予測することで、検査計画や保守管理が効率化され、プラントの信頼性向上に貢献しています。

これらの成果は、材料強度特性の予測に機械学習を適用することで、従来の手法に比べて短期間で高精度な結果が得られることを示しています。今後、さらに多くの材料に対してMIを適用することで、製造プロセスの最適化や品質向上が期待されています。

市場での差別化には、伝達手段の設計も重要になります

技術的な優位性を確立したとしても、それが正しく理解されなければ市場では埋もれてしまうケースもあります。 実際、金属加工業界においては「価格以外の基準で評価されるための情報設計」に取り組む企業もあり、事業戦略としてマーケティングや広告施策の見直しを進めています。金属加工業におけるWeb施策の取り組みなどもその一例です。

参照元:キャククル公式HP 【3分で理解】金属加工業の受注はマーケティング・広告戦略で決まる

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