マテリアルズインフォマティクス ベンダー特集

マテリアルズ・インフォマティクスの課題

目次

マテリアルズ・インフォマティクス(MI)は、AIやデータを使って新しい材料を効率的に開発する技術です。材料研究のスピードが大幅に上がると期待されていますが、導入や運用には多くの課題もあります。

MIの背景と目的

MIは、AIや機械学習を用いて材料の研究開発を効率化する技術です。

従来の材料開発は、多くの時間とコストを伴う反復的な実験やテストに依存していました。しかし、MIは膨大なデータを活用し、コンピュータシミュレーションや機械学習アルゴリズムを駆使することで、効率的に材料の特性や構造の予測が可能です。新素材の発見や開発のスピードが飛躍的に向上し、エネルギー、医療、電子機器などさまざまな産業での応用が期待されています。

データに関する課題

MIの課題

MIの課題イメージ MIの課題イメージ

データ収集の難しさ

材料研究において、実験データは重要ですが、膨大な実験を通じて得られるデータは多種多様であり、統一したフォーマットでの収集が難しいことがしばしばあります。異なる実験条件や環境下で得られたデータが不揃いになることが多く、そのためにデータの一貫性を保つことが困難です。さらに、特定の材料に関するデータがそもそも存在しない場合もあり、そのような状況では新たにデータを生成する必要がありますが、時間やコストが大きな障壁となります。

データ品質の問題

データの品質は、MIの分析結果や予測精度に大きな影響を与えます。実験データが不正確だったり、測定誤差が多かったりすると、モデルが正しい予測を行うことが難しくなります。また、実験手法や機器の違いによってデータの信頼性にばらつきが生じることも課題です。データのクリーニングや前処理を適切に行わないと、機械学習モデルの学習に悪影響を及ぼし、誤った結論に至る可能性が高まります。

データ管理と保護

材料データは、企業や研究機関にとって大切な知的財産です。そのため、データの管理と保護は課題となります。膨大なデータを安全に保存し、適切に管理するためのインフラストラクチャやデータのセキュリティ対策が必要です。また、データを他の研究者や企業と共有する際には、機密情報の流出や不正利用を防ぐための適切なアクセス制御も求められます。

技術的な課題

アルゴリズムとモデルの限界

MIにおいて、AIや機械学習アルゴリズムは重要な役割ですが、これらのアルゴリズムには限界があります。

まず、材料科学は複雑な物理現象が関与する分野であり、すべての材料特性を正確に予測するためには、非常に精緻なモデルが必要です。しかし、現行のアルゴリズムは、データの不完全さや不確実性に対処するのが難しく、既存のモデルは、多くのケースで実験データに依存しているため、十分な量と質のデータが揃わない場合、予測精度が低下するという課題があります。

計算資源の確保

材料開発において、高精度なシミュレーションや機械学習を実行するためには、膨大な計算能力を必要とします。ディープラーニングのような高度なモデルは、計算に莫大な時間を要するだけでなく、巨大なデータセットを扱うためのストレージや処理能力も必要です。このため、スーパーコンピュータやGPUクラスタのような高性能な計算インフラを整備することが求められています。

また、これらの計算資源を維持・管理するコストも無視できません。クラウドコンピューティングの進展により、従来よりも手軽に計算リソースを利用できるようになっているものの、依然として大規模な計算プロジェクトにおいてはコストや計算速度がボトルネックです。

導入と運用の課題

初期導入のハードル

MIを効果的に活用するためには、既存の実験データや過去の研究成果をデジタル化し、それらをモデルに組み込むための整備が必要です。しかし、多くの組織ではこれまでのデータが紙ベースやバラバラの形式で保存されており、デジタル化には時間とコストがかかります。また、導入初期にはMIに精通した技術者や専門家の支援も欠かせず、そのリソースを確保することが難しいことも課題です。

人的リソースの不足

材料開発に従事する研究者がデータ解析や機械学習に不慣れな場合、そのギャップを埋めるための人的リソースが足りないケースがよくあります。

また、MIを効果的に運用するためには、継続的なトレーニングやスキルの向上は欠かせません。技術の進化が非常に速いため、最新の知識やツールを取り入れるために、研究者やエンジニアが定期的に学習を続ける必要があります。しかし、多忙な日常業務と並行して実施が難しく、組織全体としての人的リソースの限界が課題となることが少なくありません。

運用中の問題

導入直後はシステムやモデルが安定しないことが多く、予期せぬエラーや不具合が頻発する可能性があります。膨大なデータを取り扱うMIでは、データの整合性や質を保つためのメンテナンスが重要です。データの更新や新たなデータの追加がスムーズに行われないと、モデルの予測精度が低下し、結果的に誤った意思決定が行われるリスクが高まります。

さらに、運用中に使用されるアルゴリズムやモデルも、定期的にアップデートや最適化が必要です。より効率的で精度の高いアルゴリズムが登場した場合、適切に取り入れられるようにシステムの柔軟性を保つことが求められます。都度、調整が必要となるため、コストや人的リソースの負担が増加することも運用上の課題となります。

組織的な課題

組織文化の変革

MIを導入するためには、まず組織の考え方や働き方を変える必要があります。

従来の材料研究では、研究者が実験を通してデータを集め、新しい材料を発見する方法が主流でした。しかし、MIではAIや機械学習を使ってデータを分析し、予測を行うため、従来のやり方だと効果を最大限に引き出すことができません。

研究者だけでなく、組織全体がデジタル技術を使うことに前向きになり、新しい方法を受け入れる姿勢が求められます

コミュニケーションとコラボレーション

MIを導入するには、材料研究者、データサイエンティスト、エンジニアなど、さまざまな専門分野の人々の協力が不可欠です。しかし、これまであまり接点がなかった分野同士が一緒に働くことは、簡単ではありません。それぞれが異なる専門知識や言葉を使っているため、理解し合うためにはコミュニケーションが重要になります。

材料科学の専門用語や考え方がデータサイエンティストには難しく、逆にデータ解析や機械学習の知識が研究者には理解しにくいことがあります。

対策と解決方法

データ関連の対策

データを集める段階でフォーマットや方法を統一しておくことで、異なる実験や研究から集めたデータを統合しやすくなります。データのクリーニング(不要な情報を除き、データの精度を向上させる作業)も欠かせません。定期的にデータを見直して、古くなったり間違ったデータを修正することが重要です。

データの管理システムにクラウドを使えば、大量のデータを安全に保存し、必要なときにすぐにアクセスできるメリットがあります。

技術的な解決方法

MIのアルゴリズムを最大限に活用するには、正確なデータの収集とデータ処理技術が必要です。データの質と量の向上、さらには多様なデータセットを統合して処理するための技術が求められています。適切なデータが整備されていない場合、アルゴリズムの精度や信頼性に影響を与えるため、データ基盤の整備が重要です。

さらに、計算資源を増やすことも重要です。クラウドコンピューティングやGPU(グラフィック処理装置)を利用することで、膨大な計算を効率的に行えて、シミュレーションや分析をスピーディーに進められるようになります。

導入と運用の改善策

MIを効果的に導入するためには、まず明確な目標設定と投資対効果(ROI)の評価が不可欠です。

導入の初期段階では、材料開発プロセスの効率化やコスト削減を目的としたデータインフラの整備、アルゴリズム導入コスト、ソフトウェアライセンス料など、総合的な要素を含めたROIの計算が求められます。

MIの導入には多くのリソースが必要ですが、データ駆動型の分析を活用することで、長期的には研究開発の加速や製造プロセスの改善が期待されます。

さらに、MIを適切に運用するためには、社内の研究者やエンジニアが新しい技術や手法を理解し、活用できるようになることが不可欠です。そのため、導入時だけでなく、継続的な教育やトレーニングプログラムの実施も重要です。

組織的な改善策

MIを効果的に活用するためには、組織全体で取り組む姿勢が大切です。

経営層がMIのビジョンを共有し、組織の目標に結びつけることで、変革に対する抵抗が減少し、導入が進みます

また、データの共有や分析は、R&D、製造、品質管理など複数の部署が協力し合います。コミュニケーションを円滑にするためのツールやプロセスの整備が重要です。例えば、クラウドベースのツールを導入することで、リアルタイムでのデータ共有や共同作業が可能になります。

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