巴川コーポレーションでは、製品設計における原料や製造条件の最適化を、長年ベテラン開発者の経験と勘に頼って行ってきました。
しかし、多品種少量の製品を素早く市場投入することが求められる中、開発スピードと人材育成のバランスに限界が訪れていました。
若手の育成には数年単位の時間を要し、十分な知見を持つまでに多くのトライ&エラーが必要となる状況だったのです。
このような背景から、同社は「ベテランの知見を形式知化し、再現可能なかたちで若手に継承できる仕組み」を必要としていました。
同時に、材料開発プロセスの標準化と効率化により、製品化までのリードタイム短縮も狙いとして掲げていました。
それを実現する手段として選ばれたのが、日立ハイテクのMIツールとカスタマーサクセスによる分析支援サービスでした。
社内では、材料ドメイン知識を持つ開発者がツールを使いこなすためのサポートが不足しており、MIの定着に大きな壁がありました。
データはあるものの、整備や分析のノウハウが属人化していたため、既存ツールだけでは現場での活用が進まなかったのです。
特に若手エンジニアにとっては、初期設定やアルゴリズムの理解がハードルとなり、「使えるけど使いこなせない」状態が続いていました。
こうした課題を解決するために、日立ハイテクのデータサイエンティスト(高原氏・岡田氏ら)が伴走支援を実施。
材料開発に特化した分析設計のフロー構築から、実際のデータを用いたハンズオン形式の指導まで、一貫して現場に入り込んだ支援が行われました。
特徴量の選定や分析モデルの解釈といった高度な内容も、開発メンバーが理解できるよう分かりやすく説明し、ツールを「使う」ではなく、「成果を出す」ための思考法まで落とし込んだ点が大きなポイントでした。
特筆すべきは、製品設計の経験が浅い若手エンジニアが、わずか2~3ヶ月という短期間でMIツールを活用し、ベテランと同等の設計判断ができるようになった点です。
ツールが示す予測や指標は、熟練者の勘と一致するものが多く、「MIを通じてベテランの思考を再現できた」という実感が現場に広がりました。
結果として、属人化していた知見が可視化・形式知化され、他の若手メンバー約10名にも同様のナレッジが展開され始めています。
また、開発全体のスピードも加速し、従来よりも約30%早く市場に製品を投入できる体制が整いつつあります。
「専門知識がない人でもMIを使い、結果を出せる」という仕組みが実現されたことで、社内の人材育成とDXが同時に前進した事例といえます。
参照元:日立ハイテク公式サイト https://www.hitachi-hightech.com/jp/ja/products/ict-solution/randd/cacestudy/001.html
マテリアルズインフォマティクス(MI)は、AIやデータ解析を活用した新しい材料開発手法として注目され、数多くの企業が導入を進めています。 しかし、実際には「導入したけれど活用しきれなかった」「社内で定着しなかった」といった失敗も少なくありません。 その背景には、社内のデータ整備の難しさ、分析に必要なノウハウの属人化、ツールを使いこなすまでの教育・定着の壁など、共通の課題が存在しています。
本ページでは、こうした課題に対して実際にMIを導入・運用し、成果を上げた事例を紹介しています。 なかでも「属人性の解消」「若手の育成」「現場での定着」といった、従来のMI導入で障壁となりがちなポイントにおいて、明確な成果を実現した事例も取り上げており、 MIの“失敗しない導入”を支援するヒントをお届けします。
トヨタ自動車株式会社では、マテリアルズインフォマティクス(MI)を活用した高性能材料のデータ駆動探索が未整備だったため、従来の経験則中心の手法では時間とコストがかかり、軽量化や燃費向上に資する新素材開発が滞っていました。
マテリアルズインフォマティクス(MI)を導入する前は、強度・耐久性・熱耐性など多様な条件を同時に満たす素材候補の試験を繰り返すうちに、データ蓄積や分析にも膨大な時間を要し、効率的な次素材開発が難航していました。
トヨタでは、マテリアルズインフォマティクス基盤として「WAVEBASE」という社内プラットフォームを構築し、AI/ビッグデータ解析を通じて材料特性を事前シミュレーションし、開発効率を向上させました。
旭化成では、マテリアルズインフォマティクス(MI)によるデータ駆動型の材料探索基盤を整備する以前は、従来の経験則と手作業中心のアプローチに頼っていたため、新材料開発に多大な時間とコストがかかり、プロジェクト全体のサイクルが長期化していました。
マテリアルズインフォマティクス(MI)未導入の状態では、実験や分析を繰り返して得られた膨大なデータを適切に統合・解析できず、最適な材料設計条件を探索するための試行錯誤に過度の工数を要していました。
そこで旭化成は、マテリアルズインフォマティクス(MI)を本格導入し、AIとデータサイエンスを活用して次世代セルロース膜をベースとしたウイルス除去フィルター「プラノバS20N」の材料特性予測と最適設計を、データ解析によって効率的に実現しました。
住友化学では、マテリアルズインフォマティクス(MI)を活用する前は、急速に変化する市場ニーズや異業種からの参入圧力に対応するための従来の経験則中心の材料開発手法だけでは迅速な製品化が難しく、開発スピードと効率の改善が求められていました。
13種類のモノマーによる共重合体組成の組み合わせが100万通りに上り、マテリアルズインフォマティクス(MI)導入前の従来手法では膨大な試行錯誤が必要で開発期間が長期化していました。
住友化学は、マテリアルズインフォマティクス(MI)手法としてベイズ最適化を導入し、データ駆動で100万通りの組み合わせを解析。わずか4サイクルで最適な共重合体組成を予測し、実験回数を大幅に抑制しました。
東レでは、マテリアルズインフォマティクス(MI)を活用することで航空機用CFRPの高性能材料開発を推進してきましたが、導入前は従来の経験則中心手法での設計と評価に多大な時間とコストがかかっていました。
マテリアルズインフォマティクス(MI)未適用の状態では、安全基準を満たす難燃性と高強度・軽量性を同時に確保するための試行錯誤が必要となり、CFRP開発の研究サイクルが長期化していました。
東北大学発の自己組織化マップとマルチスケールシミュレーションを統合したマテリアルズインフォマティクス(MI)プラットフォームを構築し、AIとデータ解析で材料特性を可視化・多角的に解析することで、開発プロセスを最適化しました。
横浜ゴム株式会社では、マテリアルズインフォマティクス(MI)を活用する以前、次世代タイヤに求められる高性能化・環境適応性を実現するための材料開発プロセスが従来の試行錯誤中心であり、効率化とスピードアップが急務となっていました。
マテリアルズインフォマティクス(MI)未導入の段階では、多種多様なゴム配合パラメーターの最適化に膨大な実験と時間を要し、技術者の経験に依存した開発サイクルが長期化していました。
横浜ゴムは2017年にマテリアルズインフォマティクス(MI)を導入し、AIによる材料データ解析技術を確立しました。さらに2020年12月には配合物性値予測システムを実用化し、「HAICoLab」構想のもと、研究者とAIが協働する開発体制を構築しました。
ENEOSでは、マテリアルズインフォマティクス(MI)を導入する以前、従来の試行錯誤中心の研究開発に多大な時間とコストを要し、特に石油化学基盤の素材開発での高度な材料特性を実現するための膨大なデータ解析が大きな課題となっていました。
マテリアルズインフォマティクス(MI)未適用の状態では、実験データを効率的に統合・解析できず、試行錯誤型の開発プロセスが長期化しており、開発サイクルの短縮とコスト抑制が急務となっていました。
ENEOSは、マテリアルズインフォマティクス(MI)を活用し、AIとデータサイエンスに基づくデジタル技術を導入。実験データの迅速な解析により、材料特性の高精度予測モデルを構築し、高機能潤滑油素材の探索を短期間で実現しました。
NECは、マテリアルズインフォマティクス(MI)を導入する以前、従来の試行錯誤中心の材料開発プロセスに依存していたため、新材料探索の迅速化が困難でした。そこで東北大学と共同でマテリアルズインフォマティクス(MI)とAIを融合した新たな開発サイクルを確立しました。
マテリアルズインフォマティクス(MI)適用には高精度な材料データが不可欠でしたが、そのデータを効率的に収集・評価する技術基盤が不足しており、解析精度の向上を阻んでいました。
NECは、マテリアルズインフォマティクス(MI)のアプローチとして、東北大学材料科学高等研究所と連携し「異種混合学習技術」を開発しました。これによりAIが大量の材料データを学習・予測し、材料特性を迅速かつ正確に解析するワークフローを構築しました。
サムスン電子では、マテリアルズインフォマティクス(MI)を導入し、MITと共同で蓄積した材料特性データをフル活用する体制を整備しました。これにより、全固体電池向け固体電解質の研究開発プロセスを従来の数年から短期間で高速化しています。
従来の液体電解質から固体電解質への材料転換では、安全性・寿命向上に資する材料候補の選定に膨大な実験と時間を要し、研究開発期間が長期化していました。
サムスン電子は、マテリアルズインフォマティクス(MI)とデータサイエンスを駆使し、MITと共同で得た蓄積データを解析して最適な固体電解質候補を予測するワークフローを構築しました。
JSRでは、マテリアルズインフォマティクス(MI)を活用する以前、多様な先端複合材料の開発において試行錯誤に要する時間とコストが膨大で、新素材設計のスピードと効率性向上が大きな課題となっていました。
マテリアルズインフォマティクス(MI)未適用の段階では、材料組み合わせの理論数が天文学的で、理論計算や固体物理の専門知識に頼る試行錯誤型の開発プロセスでは非効率で時間とコストが増大していました。
JSRは、マテリアルズインフォマティクス(MI)技術を導入し、東京大学などと連携して独自のMIツールに最先端アルゴリズムを搭載しました。大学や研究機関との共同研究を通じ、高度な分析手法を開発するとともに、現場の開発担当者向けに使いやすいプラットフォームを内製化しました。
日本ガイシでは、マテリアルズインフォマティクス(MI)を活用する以前、自動車排ガス浄化用セラミック製品の高い耐久性・信頼性を確保するために専門チームが長時間の実験やシミュレーション検証を繰り返しており、製品開発に多大な時間を要していました。
マテリアルズインフォマティクス(MI)未導入の状態では、製品特性を十分に再現できる高精度モデル構築と、専門知識の少ないエンジニアでも扱えるユーザーインターフェースを両立させることが難しく、AIモデル導入のハードルが高い状況でした。
日本ガイシは、マテリアルズインフォマティクス(MI)の一環として、名古屋大学宇治原研究室の結晶育成AIモデルをセラミック製品向けに改良し、アイクリスタルによる高精度化とユーザビリティ強化を実装しました。このMIシステムを自社の検証環境に統合し、シミュレーションから解析まで一貫したデータ駆動型ワークフローを構築しました。
日本ゼオンでは、マテリアルズインフォマティクス(MI)を活用して解析依頼対応を効率化する前は、年間数十件の解析依頼を基盤技術研究所(基盤研)が担い、前処理や統計解析に多大な工数を割いていたため、研究員が高度なモデリングに集中できない状況でした。
マテリアルズインフォマティクス(MI)未導入の状態では、主剤・添加剤・充填剤などの複雑な変数組み合わせが数千パターンに及び、手作業での変数選択では重要因子の見落としや解析精度の低下が課題となっていました。
日本ゼオンは、マテリアルズインフォマティクス(MI)プラットフォームとして2017年にdotDataを全社導入し、GUI操作だけで特徴量抽出からモデリングまで一気通貫で自動化しました。基盤研と現場研究員が自らデータ解析を実行できる体制を整備し、“データ民主化”を推進しました。
住友電工では、マテリアルズインフォマティクス(MI)による新素材探索や製造プロセス高度化を目指していましたが、導入前はオンプレミス環境では膨大な計算資源を要する物性予測に対応しきれず、開発期間短縮には柔軟かつ高速な計算基盤が求められていました。
マテリアルズインフォマティクス(MI)未適用の状態では、電解液粘度や高分子密度のシミュレーションに1回あたり数日~1週間以上を要し、同時並行実行が困難で試験パターン数に限界がありました。さらに、共同開発にはコード・データ共有環境が不可欠ですが、オンプレミスではメモリ・GPU性能不足やストレージ制限があり、ハード調達にも長期間を要して研究推進を阻んでいました。
住友電工は、マテリアルズインフォマティクス(MI)基盤としてRescaleのクラウドHPCプラットフォームを採用し、コンテナ環境でオープンソースシミュレーションソフトや自社開発プログラムを実行可能にしました。MPIを活用した大規模並列計算のPoCを迅速に達成し、プログラムのコンテナ移行も円滑に完了させることで、MIに必要な高速でスケーラブルな解析基盤を構築しました。
カネカでは製造コスト削減と労働生産性向上を目的に国内工場へDX投資を行い、AIプラットフォーム開発やデータ解析人材育成に取り組んでいました。
連続乾燥設備の運転管理はオペレーターの手動調整に依存しており、蒸気使用の無駄や品質バラつきが発生していました。各工場で重複開発が進み、統一的なデータ管理基盤とスケーラブルな運用体制が整っていない状況でした。
カネカはマテリアルズインフォマティクス(MI)の考え方を取り入れ、Dataikuを基盤としたAIプラットフォームを導入し、運転データを収集・前処理したうえでAIが中間体供給量と蒸気温度を高精度に予測し、最適設定値をリアルタイムに制御システムへ反映しました。
京都大学の材料工学分野では、熱制御材料の新規探索において既知物質の改良が中心で、新規物質発見には長期間と高コストがかかり、研究範囲の拡大が困難でした。
低熱伝導材料開発では、第一原理計算と実験を繰り返す必要があり、スーパーコンピュータ資源の利用競合や属人化した知見によって研究サイクルが長期化していました。
量子力学的第一原理計算で約100物質の熱伝導度を算出し、その高精度データを機械学習モデルに学習させたうえで、ICSD登録の約5万5千物質をバーチャル・スクリーニングでランキングするワークフローを構築しました。
積水化学では、スマートフォンや電子機器などのライフサイクル短縮により、材料開発にかけられる時間が年々圧縮されていました。一方で、環境性能や強度、リサイクル性など、求められる素材の条件は複雑化し、従来の経験や手作業を中心としたアプローチでは対応が難しくなっていました。
研究者が過去の経験や勘をもとに設計していたため、試行錯誤に多大な時間と労力がかかり、同じような実験を重複して行ってしまう事例もありました。また、実験データは個人に属していることが多く、社内全体での共有・再利用が難しいという課題もありました。
積水化学は、マテリアルズインフォマティクス(MI)を本格導入し、研究者の過去の実験データを収集・構造化。その上でAIによる材料設計予測モデルを構築しました。加えて、日立製作所と連携し、データ収集の自動化やデジタルツインによる仮想実験にも着手しています。
Nittoは、高機能材料の開発において試作と評価の負荷が課題となっており、開発の効率化と加速を図るため、AIを活用したマテリアルズインフォマティクス(MI)の導入を検討しました。
データ量の少なさや、部門間の専門性の違いにより、解析や意思決定に時間を要していました。また、汎用ツールでは現場での活用が難しく、社内普及に障壁がありました。
日立の「材料データ分析環境」とMIコンサルティングを導入し、研究者自らがAI解析できる体制を整備。教育研修にも組み込むことで、社内でのMI活用を加速させました。
日本製鉄では、高周波通信技術の進展に伴い、フレキシブル基板などに使用される誘電材料の高性能化が求められていました。特に、低誘電率・低誘電正接の材料開発が重要視される中、従来の試作と実験を繰り返す手法では、開発スピードや探索範囲に限界がありました。
ポリイミドの誘電特性は分子構造により大きく異なるため、膨大なモノマーの組み合わせを試す必要があり、試作や評価に時間とコストがかかっていました。また、経験則に頼った材料設計では効率的な絞り込みが困難で、未踏領域の探索も進みにくい状況でした。
日本製鉄は、マテリアルズインフォマティクス(MI)を活用し、過去の実験データや第一原理計算結果をもとに機械学習モデルを構築。ポリイミドのモノマー候補を仮想的にスクリーニングし、誘電特性に優れた化合物の絞り込みを実現しました。さらに、実験との予測値照合によりスキームの有効性も検証しています。
富士フイルムでは、化学・材料技術とデジタル技術の融合により、材料開発のスピードと品質の向上を模索していました。従来の経験と実験に依存した開発手法では、候補化合物の選定に長い時間を要し、探索の効率化に限界がありました。
研究者の知見に基づく試行錯誤型の開発は、時間とコストの負担が大きく、未知の構造を見出すには非効率な状況でした。また、部門ごとのデータの断片化や、サプライチェーン管理の非効率性も全体最適を阻む要因となっていました。
富士フイルムは、マテリアルズインフォマティクスと生成AIを組み合わせることで、化合物構造の予測からスコアリングまでを自動化。ブロックチェーン基盤のDTPFを活用してサプライチェーン情報をリアルタイムに共有し、RAG技術を用いた高精度回答生成にも取り組んでいます。
フジクラでは、ゴムシース材料の配合において、引張強度と伸びの両立が求められる中、従来の試行錯誤的な開発手法では開発期間やリソースに大きな負担がかかっていました。
14種類以上の配合剤を複数水準で組み合わせる必要があり、試験条件の組み合わせは数百万通りにのぼる中、従来は経験と勘を頼りにしたアプローチで実験回数や開発期間が膨大になっていました。また、複数特性の最適化に伴うトレードオフの調整も難しく、効率的な設計が困難でした。
フジクラは、マテリアルズインフォマティクス(MI)を基盤技術として導入。既存データを活用し確率モデルを構築、ベイズ最適化を用いて効果的な配合探索を実施しました。UMAPによる可視化やXAI技術の活用により、モデルの解釈性を高めながら、開発工程にフィードバックする仕組みも構築しています。
ホンダでは、軽量化ニーズの高まりとマルチマテリアル構造の普及により、材料情報の高度な共有と開発スピードの向上が求められていました。モデルベース開発の拡大やCAEの高度化に対応するためにも、材料データの整備と活用が急務となっていました。
材料情報が部門ごとに分散しており、必要なデータの検索や活用に手間がかかっていました。また、材料の種類や試験条件が多岐にわたる中で、担当者ごとに求める情報が異なり、統一的なデータ管理が難しい状況でした。加えて、現場主導の体質により、データの属人化が業務効率を低下させる要因となっていました。
ホンダは、材料データの一元管理と活用を目的に「ANSYS GRANTA MI」を導入。ユーザーの立場や目的に応じて必要な情報にアクセスできるよう、権限管理やテンプレートの整備を行いました。また、機械学習による特性予測により、実験データから新たな材料候補を抽出する取り組みも進められました。
村田製作所では、材料開発において多くの試行錯誤を必要とする従来手法に限界を感じていました。高性能な材料を効率よく見つけ出すための新たなアプローチとして、AIの導入と活用が模索されていました。
従来は総当たりの実験によって材料を選定しており、試験回数やリソース消費が膨大でした。データ量が限られる中で予測精度を保つことが課題となっており、誰でも扱いやすい解析環境の整備が求められていました。
村田製作所は、社内のAI人材育成プログラムとNTTデータ数理システムのコンサルティングを通じて、マテリアルズインフォマティクス(MI)を導入。ベイズ最適化を中心とした手法により、少ないデータでも材料性能の予測が可能な解析環境を構築しました。VAP上でのGUI操作によって、プログラミング不要で実行できる仕組みも整えています。
ダイキンでは、業務用エアコンを構成する多様な部品や冷媒を自社開発する中で、より効率的かつ論理的な材料開発プロセスが求められていました。従来の経験則に依存した開発手法に限界を感じ、データと理論に基づく材料設計を実現するため、マテリアルズインフォマティクス(MI)の導入が進められました。
高分子材料の構造は非常に多様で、分子鎖の長さや分岐、成形加工条件など複数の要素が物性に影響を与えるため、入力パラメータの定義が難しく、既存の機械学習モデルがうまく機能しないという課題がありました。また、属人的なノウハウに依存していたことで、技術継承や効率的な知見共有にも限界がありました。
ダイキンは、実験データや業務知見を活用しながら、独自の開発データで強化されたMI環境を構築。開発者自身が材料のコンセプトを定義し、AIを用いた予測モデルによって試作前の絞り込みと検証を迅速化しました。さらに、顧客との対話においてもMIによる材料候補の提示を行うことで、共同開発のスピードを向上させています。
ダイセルでは、高分子材料開発において、従来の試行錯誤的な合成実験に大きな労力と時間がかかっていました。データと理論に基づいた新材料探索を加速させるため、マテリアルズインフォマティクス(MI)の導入が検討されました。
仮想的に設計された高分子構造の合成方法が不明であったため、専門家の経験や勘に頼って実験を設計する必要がありました。その結果、合成実現性の評価に多くの時間を要し、MIによる材料開発の効率化が進まないという課題がありました。
ダイセルは統計数理研究所と連携し、22種類の重合反応ルールを実装した仮想高分子生成モデル「SMiPoly」を開発。市販原料から合成可能な高分子ライブラリを生成し、機械学習モデルと組み合わせることで、有望な材料候補の絞り込みと迅速な合成実験設計を実現しました。
ブリヂストンでは、高性能タイヤの開発においてゴム素材の複雑な特性評価が求められていました。従来の試作と実験を繰り返す方法では開発に時間がかかり、市場ニーズへの迅速な対応が困難でした。これを打破する手段として、材料開発をデータとAIで支援するマテリアルズインフォマティクス(MI)の導入が検討されました。
ゴム素材は温度や力の加わり方によって特性が大きく変化するため、材料の配合設計には熟練者の経験に頼らざるを得ない状況が続いていました。その結果、開発には多大な時間とコストがかかり、新たなニーズや環境変化への柔軟な対応が難しいという課題を抱えていました。
ブリヂストンは、MIと構造CAE、独自のアルゴリズムを組み合わせたシミュレーション技術を活用し、素材の構造と性能の関係性を分子レベルで可視化。未知素材の探索や性能予測を高精度で行えるワークフローを構築しました。また、グローバル拠点と連携し、デジタルと実験を統合した開発基盤を整備しました。
レゾナックでは、半導体をはじめとする高性能材料の開発において、従来の経験則や試行錯誤に依存したプロセスではスピードと効率の両立が難しくなっていました。特に、感光性樹脂の性能向上が求められる中、迅速な材料探索と試作サイクルの短縮が急務となっていました。
多数のモノマー候補の中から、性能要件を満たす組成とその比率を特定するには、膨大な組み合わせを評価する必要がありました。たとえば100種のモノマーから5種を選び、それぞれの配合比率まで最適化しようとすると、従来法では計算に10万年かかると試算されるほどです。このような背景から、効率的な探索手法の導入が求められていました。
レゾナックは、ディープラーニング技術を取り入れたケモインフォマティクスアプリと、アニーリングによる最適化アルゴリズムを組み合わせたMI手法を開発。ユーザーが直感的に分子構造を描画し、物性値を予測できるWebアプリケーションにより、専門知識が浅くても容易に材料設計を行える環境を整備しました。これにより、複数の目標特性を同時に満たすモノマー組成を短時間で抽出可能となりました。
東ソーでは、材料開発における試作・評価工程の効率化を目指し、マテリアルズインフォマティクス(MI)の導入に着手しました。従来は複雑な階層構造を持つ高分子材料に対し、試行錯誤を重ねるアプローチが主流であり、設計に時間とコストがかかるという課題がありました。
高分子材料は構造が多階層にわたるため、物性に影響を与える変数が多く、従来手法では有効な組み合わせの探索が困難でした。また、シミュレーションと実験をどのように連携させるかといった仕組み作りも課題となっていました。
東ソーは、第一原理計算や粗視化分子動力学(DPD)、有限要素法(FEM)などのシミュレーション手法を、統合シミュレータOCTAを通じて連携させ、機械学習と組み合わせたプラットフォームを構築。高分子材料の設計支援や物性予測に活用することで、開発効率の向上を図りました。
パナソニックでは、電池をはじめとした先端デバイスの性能を高めるために、材料技術の高度化が欠かせない状況でした。しかし従来は、試行錯誤による手作業中心の材料探索が主流で、開発に多大な時間とコストを要していました。新材料の発見に10年近くかかるケースもあり、開発スピードと効率性の向上が強く求められていました。
長年蓄積された実験データは紙のノートや散在するファイルで管理されており、検索性や活用性に課題がありました。また、材料技術者とIT技術者の連携も十分でなく、膨大な組成パターンを評価するには人的・時間的リソースが不足していました。これにより、材料開発サイクルの長期化と予測精度の限界が課題となっていました。
パナソニックは、社内に蓄積された実験・計算データのデジタル化と統合を進め、マテリアルズインフォマティクス(MI)を本格導入。材料技術者とAI技術者が連携し、構築したデータベースと機械学習モデルにより、電解質などの材料特性を仮想空間で予測し、最適な組成の絞り込みを実現しました。さらに、AIが提案する条件に基づく実験を繰り返すことで、効率的な開発体制を構築しました。
アイクリスタル株式会社では、試作と評価に依存する従来の開発手法では時間とコストの面で負担が大きく、複雑な組成設計を伴う高機能材料の探索が非効率になっていました。そこで、過去データを活用した予測と最適化を実現するために、マテリアルズインフォマティクス(MI)およびプロセスインフォマティクス(PI)の活用を進めました。
材料の候補組成は膨大で、わずかな配合差で特性が変化するため、すべてを実験で検証することは現実的ではありませんでした。効率的に有望領域を絞り込み、設計段階での判断精度を高めるためのデータ活用とモデル化が求められていました。
過去の合成・評価データを統合し、機械学習モデルにより新規組成の特性を予測する仕組みを構築しました。さらに、物理シミュレーションと実験を組み合わせるハイブリッド手法を取り入れることで、探索効率を高めつつ、物理的要因を考慮した設計を行えるようにしました。
日本タングステンでは、タングステン線材の製造において、ダイス通過後のワイヤ径を手作業で検査していました。新規ダイスの立ち上げ時にはワイヤドロー機を使わない「手引き加工」で規格内かを確認する必要があり、熟練者の判断に依存しやすく、検査工数と立ち上げ時間が大きくなっていました。
ワイヤ径の許容範囲(±2%)を安定的に満たすための検査がボトルネックとなり、特に微細径の領域では測定画像の解像度に起因する誤差が発生していました。新人の習熟にも時間を要し、検査の再現性とリードタイムの両立が難しい状況でした。
ダイスの穴径・丸み・縮小角・ベアリング長さ・ベアリング長さ差・ずれ量の6項目を説明変数とし、手引き加工後の線径を目的変数にしたAIモデルをPythonで構築しました。線形回帰・ランダムフォレスト・ニューラルネットワークを比較し、少量データに適したLOOCV(Leave-One-Out)で精度を評価した結果、線形回帰モデルを採用しました。現場利用に向けて入力項目と操作手順を整理し、ツール配布と運用を開始しました。
アキレス株式会社では、高分子材料の研究開発において、配合や条件の組み合わせが多岐にわたるため試行が重なり、時間とコストの負担が大きくなっていました。蓄積してきた実験データを有効活用し、有望な処方を事前に絞り込むデータドリブンな手法の確立が求められていました。
経験や属人的な勘所に依存した探索では、成功に至るまでの実験選別が難しく、再現性や組織的なスピードの確保にも課題がありました。成功データだけでなく失敗データも含めた知見を横断的に活用し、無駄な試行を減らす仕組みが必要でした。
アキレスは山形大学と共同で、物性予測にガウス過程回帰、実験の成否判別にランダムフォレストを用いるMI基盤を構築しました。ポリウレタンフォームの実験データを学習させ、成功・失敗の双方の履歴を活かして「どの処方・条件を優先的に試すべきか」をモデルで提示し、実験計画の質を高めています。
デクセリアルズは2023年4月、事業部を起点とした少人数のMI推進チームを立ち上げました。過去の実験・測定データは蓄積されていた一方で、データを意思決定に結びつける設計が不足していたため、現場の開発者が主語になれる運用を重視しました。プログラミングを前提としない使いやすいツールを選定し、身近な題材から小さく試す方針で着手しました。
社内にMIの実務経験者が少なく、データの整備は進んでいても活用プロセスが定義されていませんでした。そこで、実務データを用いたデモンストレーションを段階的に実施し、関係者が手触りを持って理解できる状況をつくることで、導入の心理的ハードルを下げ、テーマ募集や部門間連携を促進する素地を整えました。
検証はおおむね4カ月のスプリントで設計し、既存製品を題材にMIで同等解に到達できるかを“確かめ算”として評価しました。運用では、経験や勘に加えて過去データに基づく予測・探索で実験条件を事前に絞り込む流れを開発プロセスへ組み込み、初年度の検証段階から正式導入へ移行。翌年度にはコーポレートR&D本部を含む研究開発部門へ横展開しました。
専門領域を持っているMIベンダーを厳選しました。
自社の研究対象に近しい領域を専門としているMIベンダーの方が、
コミュニケーションにズレがなく、知見や実績も豊富な可能性があります。
化学・素材分野で数多くの開発を成功に導いた実績があります。
日立グループ全体の強みを活かして材料開発を総合的に支援できることから、早期の市場参入を可能にします。
富士通では、創薬に特化したプラットフォームを用意。特許読解、法規制物質チェックにも一貫して対応可能。
特定の材料開発プロセスではなく、創薬研究プロセス全体のDXが叶う点も魅力です。
新しいエネルギー材料の特性を正確に予測する「Mat3ra」(旧Exabyte.io)プラットフォームを提供。
新しいバッテリー材料や軽量合金の開発をスピーディーに進められることが可能です。